Tunaboni CollectionsはオリジナルドラマCDのレーベルです。

【なんということでしょう】

いちゃいちゃ❤お天気diaryVol.1志那編「発売記念ストーリー




そういうわけで「浴室乾燥機」への期待度が高くなった俺は、どうせなら見学に丸一日を費やそう、と思った。
彼女にも水を向けてみる。
「できればショールームも一社だけじゃなくて、いくつか見てみたくない?」
「?どういうところへ行けばいいの?」
「住宅展示場ならいろいろあるんじゃないかな……たぶん郊外にあるはず」
と、例のごとくスマホを手に取る俺。

「……そういう場所って私たちみたいな人間は冷やかし扱いされそうだね」
「だとしてもさ」
グーグル先生に教えを乞いつつ俺は答える。
「俺らの見た目でそっけなくされたら、その住宅メーカーとは縁がないってことかなと」
「真理だ」
「真理でしょ」
カーディーラーの営業マンがいい人だからずっとその人から車を買い続けているうちのじーちゃんみたいな人もいるわけで。
ほぼ冷やかしだけど、いつかお返しできるかもしれないから、そこは長い目で見てもらいたい。

私鉄に乗って郊外に向かう。
都心から離れ景色がどんどん緑色に変わっていくのを見ていると何だかホッとしてくる。
最寄り駅に着いた後はバスに乗り換えて「●●住宅公園」という停留所で降りた。

「広いね。綺麗だね」
感嘆の声をあげる彼女を見て【デートコース=住宅展示場】あるあるじゃね?と思う。
大英断だったかも。
「花や緑がたくさん……ピクニックに来たみたいだねぇ」
「ホントだ。弁当が欲しくなるね」
とりあえず「センターハウス→」という案内があったので、その施設に乗り込むことにした。

受付のお姉さんはとても感じがよく丁寧に話を聞いてくれる。
「今の浴室の設備が古いので、改築したいと思っているんです……場違いかもしれないんですけど」
「なるほど、リフォームでございますね。場違いなことはございませんよ」
うんうん「持ち家」だと思われている。

「東エリアにリフォーム済みのモデルハウスが何棟かございます。リフォーム専門の業者が入っておりますので、ぜひ施工例をご覧くださいませ」
「?モデルハウスをリフォームするんですか?」
「はい。建築業界は日々技術が進歩しますので、古いモデルハウスを移転して最新の設備に改築、ということもこちらでは行っております」
へー、すごいな!
「新築だけが展示場の売りではございません。住宅に関する全てをご案内しております。どうぞお気軽にご家族さまにも足を運んでいただければと思います」
熱いお姉さんだ。
あ、でもオヤジの家の話だと思われたってこと?

施工例のパンフレットを見ながら東エリアに向かう。
「……つまり、実家を改築しようとしている孝行息子という設定になったのかな」
「なった、なった」
おかしそうに笑う彼女。
「なんかさ、俺思ったんだけど」
「うん?」
「家を建てたいとか、リフォームしたいって人たちが集まる場所だからだと思うけど、スタッフもお客さんもポジティブっていうか楽しそうに見える」
「あー、わかる」
「遊園地に通じるもんがある」
「それだ。どこを見ても綺麗だし夢があふれてる感じ」
「マイホームの夢だな」
「ふふ、志那の得意分野だね」
「こら、主婦っぽいって言いたいんだろ?」
「あはは」

リフォームエリアの担当は若い男の人が1人きりだった。
にこやかな笑顔で「ご自由にごらんください」とまたもやパンフレットを数冊渡してくれた。
(ここではパンフ用にでかいリュックが必需品ということを肝に銘じておこう)
早速、最初の物件を見学することにした。

浴室のビフォーの写真とアフターの目の前の現物を見比べてみる。
「なんということでしょう」
「なんということでしょう。言わずにはいられないね」
「夢がある」
「ある。あふれている」
「ほっからり床」
「ゆるリラ浴槽」
「最高じゃないですか?」
「最高でしょう」
俺ほど生活環境にこだわりがなさそうな彼女にも響いているようだ。
「なんということでしょう」と言いながら、キッチンやトイレも余すところなく見学していく。
他の物件も巡った結果、俺たちの頭の中はすっかりぽやぽやになった。

そして。
帰りのバスの中で俺はあることに気が付いた。
「……浴室の乾燥機って見た?」
「えっ」
思わず顔を見合わせた。

「……なんということでしょう」
「……なんということでしょう……一体何をしに行ったんだ……」
がっくりうなだれる俺の横で、
「まぁ、いいんじゃない?楽しかったから」
と、あっけらかんと笑う彼女。

いつもこんな風だ。
先走りがちな俺が空回りすると、こうやっていい具合にのんびり彼女がカバーしてくれる。
「……もともと合うようにできているんだろうな」
「合う合わないがあるんだ? 乾燥機、自分でできそう?」

ああ、いいな。好きだな。
勿論リフォームの話じゃなかったけれど、こんなところで愛を語るのは恥ずかしいから、
「うん、まったく問題ないと思う」
と、俺はすまして言った。


(了)