Tunaboni CollectionsはオリジナルドラマCDのレーベルです。
恋する編集者シリーズ第4弾「撫でし子。」アフターストーリー
ミタニはずるい。
さっきまで彼女の膝はオレのものだったんだ。
「優さん、お帰りなさい」と彼女がミタニを出迎えた時に床に降ろされたのはしょうがない。
それから二人で食事を取ったのも認めてやろう。(人間だって腹は減るだろうし)
だが問題はその後だ。ミタニは言った。
「なんだか耳がごろごろする。うっとおしい感じだ」
優しい彼女は「それは困りますね。見ましょうか?」と言いながらミタニを手招きした。
右手にはふわふわした白い綿毛?のついた細い棒を持っている。(耳かき棒というものらしい)
それを聞いたミタニの顔が「どうしたんだ、お前!」と言いたくなるほどゆるゆるになったのを、オレは見逃さなかった。
かくして彼女の膝はミタニの頭に占領されてしまった。
ミタニは「うはー」だの「あー」だのという気持ちよさそうな奇声を発する。
……腹が立ってしょうがない。オレだって彼女の膝の上でゴロゴロ言いたい!
(してみるとミタニの「あー」はゴロゴロと言うことか)
「さっきからチビにじっと見られてるよ」
「耳かきの毛が気になるんじゃないでしょうか」
「なるほど。そうか」
……。じゃあそういうことにしておいてやろう。
オレは低く姿勢を取り、ミタニの耳の上で踊るふわふわに狙いを定める。
題して「耳かき棒&彼女の膝・奪取計画」
それでこの膝枕とやらが中断されてしまえばいいのだ。
飛びかかろうとした瞬間、ミタニがすばやくオレをキャッチした。
「はっはー、残念でしたー。チビスケくん!」
胸に抱え込まれたオレはジタバタともがく。
やめろ、顔を寄せるな、お前のヒゲは好きじゃない。
「優さんどうですか?」
「うん、スッキリした。ありがとう」
……耳かきが終わったらしい。
だがミタニはオレを抱えたまま彼女の膝からどこうとしない。
そして片手だけ伸ばして彼女の頭を引き寄せて、顔を近づけた。
二人の身体にサンドされてオレは身動きが取れなくなってしまった。
……この二人はたまに、いや、頻繁にこれをする。
オレと彼女も鼻同士をこすり合わせることはあるが、人間の作法だと口同士でするもののようだ。
きっと仲良しの挨拶なんだろう。
オレはしばし考える。
オレが人間になった暁のことを。
(彼女とはともかく、ミタニとこれをするのは嫌だなぁ)
悩み深いオレに気づくことなく、二人の挨拶はいつまでも続いていた。
(了)