Tunaboni CollectionsはオリジナルドラマCDのレーベルです。

【ハッピー・ファニー・バースデー】

恋する編集者シリーズ第1弾「はつ恋。」アフターショートストーリー




保との同棲生活を開始してから最初の私の誕生日が来た。
私の心に期するのは(ああ、また保とひとつ歳の差が離れた)という年上彼女としての切ない感慨だったのだが、
保自身は大層なはしゃぎようで「俺、好きな人の誕生日を一緒に祝ってあげるの初めてだ」
と手放しで喜んでくれた。

「今日は何もしないでいいからね? 家事の一切は俺に任せなさい」
たまたま日曜ということもあり、手持ち無沙汰なまま、食事の後片付けをしたり掃除をしたりする保を眺めている。
ふだんは帰宅の遅い保より家事負担は私の方が多いが、家事は嫌いではないしどうせやることだから、と言っている。
気にしなくていいのに保はこういう機会に挽回したいらしい。
ただ、一つだけ気がかりがあった。

さすがに下着まで洗濯させるのは気が咎めて「それはしなくても」と止めたのだが、
保は「やる」と言って聞かなかったのだ。
「大丈夫。ネットに入れて弱水流で洗ってる。問題ない。できる」
洗濯機の終了音が鳴り、洗いたての衣類を抱えて意気揚々と保はベランダに出ていった。

だがその後異変は起きた。
(……何故あんなにブラジャーを見つめているんだろう)
眉間にしわを寄せ、真剣そのものの表情で慎重にピンチにぶら下げている。

やがてベランダとの間仕切り戸を締めた保が
「ねぇ、ちょっと教えて」と言いながら近づいてきた。
「あのさ。干し方が悪いと型がくずれることってあるのかな。そのぅ~ブラジャーの」
あまり気にしてなかったこと。思わず首をひねる。

「そのせいでおっぱいの形が変わったりする?」
「いや、あなたのおっぱいがどんな形になっても、俺は大好きだから別にいいんだ、うん」
「でも、あなたが困るかなと思って。ちょっと干し方を確認してみて。あれだけ自信がない」
「……」
(それであんなに悩んでいたのね)

「どうしたの?」
うつむく私の顔を覗こうとするのを制して、彼の胸に飛び込む。
「……保はずっと保だね」
「うん?」
「ありがとう」

好きになってくれてありがとう。
待っていてくれてありがとう。
優しくしてくれてありがとう。
いくつものありがとうを眼差しにこめる。

保は少しの間目を瞠っていたが、やがて微笑みながら優しいキスを落としてくれた。
「俺にも言わせて。生まれてきてくれてありがとう」
唇ごしに震えて伝わる言葉が嬉しい。
両掌に頬を支えられたキスは次第に深くなり、息をするのも苦しくなった。
そして、彼の『いい?』というアイコンタクトにうなずいて寝室へ―

そんなこんなで夕飯は大変遅くなってしまったのだが。
テーブルに並んだのは保ががんばって作った「男のシーフードカレー」と「男のシーザーサラダ」でとても美味しかった。
(『男の』をつけるのが正式名称だそうだ)
その後は部屋の明かりを消してケーキのろうそくに火をつけた。

バースデーケーキの上でゆらめく炎と保が歌うバースデーソング。
歌い終わった保が言った。
「火、吹き消して。願いごとを考えてね」
私の願いごとはただひとつだけ。
『いつまでも保と一緒にいられますように』



(了)