【ハロウィーンの日ショートストーリー】
mariageシリーズ
(峯岸夫婦編)
「ただいまー」
『おかえり、たっちゃん』
「ハロウィーンは日本に浸透したねぇ。駅前は仮装してる人がいっぱいだったよ」
うん、すごかったよね、と返事をするおまえにギフトBOXを見せる。
『?』
「ハロウィーンのお菓子だよ」
『おおっ嬉しい。ありがとう』と受け取る手前で寸止めする。
「ちょっと待って。お約束のセリフをどうぞ」
『えーと……お菓子をくれなきゃイタズラするぞ?』
ちっちっちっ、と俺は指を振る。
「もう少し変化球が欲しい」
『?なんて言えばいいの?』
「『お菓子をくれなきゃイタズラさせてあげないぞ!』てのはどう?」
『……た、たっちゃん……』
(樋口夫婦編)
とある制作会社のハロウィーン仮装パーティーに毎年参加しているが、今回は嫁を同行させる。
嫁を新人デザイナーとして売り込む狙いがあるからだ。
「と、いうわけでおまえはこれを着ろ」
『……ヒヨコの着ぐるみ……』
「抵抗ないだろ?仮装じゃなくて実装だから」
『……実装!?……そういう涼さんはどんな仮装なんですか?』
俺はここ数年ずっと同じ仮装で通している。
最初の頃は頭を悩ませて工夫をしていたが、今はもう気楽にやることにした。
「俺はここんとこ『ウォーリーを探せ』のウォーリー一択だな。被り物もなくて楽でいい」
『おお、涼さんも実装なのか』
「……なにぃ?……いいから俺のために見せてみ。ひよこinヒヨコを。ほらほら着替えろよ」
『……(もしかして自分が見たいだけなんじゃ)……』
(こうしてウォーリーとヒヨコは仲良く手をつないでパーティーに出かけていきました)
(月村夫婦編)
ハロウィーンの日の商店街は、それぞれの店を訪れた子どもたちにお菓子を配るイベントをしている。
前日俺はその袋詰めを手伝った。
「子どもたち、喜ぶだろうねぇ」
『仮装した子どもたちってすごく可愛いよ』
「だろうねぇ………ん?それは何?」
ああ、これ、とおんちゃんが手にしたのは小さなポットだ。お菓子と一緒に渡すらしい。
『これはエアプラント。園芸の楽しみを知ってもらえたら嬉しいなって』
ポットをビニール袋に入れていく優しい手つきを見ていると、うちの店の花は幸せだなぁと思う。
(そんなこの人といる俺も幸せなのは言うまでもありませんけどね?)
「子どもたちがお花好きになってくれるといいね」
『そうだねぇ……将来このお店のお得意様になってくれないかなぁ……?』
「……おんちゃんの目がまた商人(あきんど)に……」
(宇佐美夫婦編)
(某所のハロウィーンの行列のニュースをテレビで見ている2人)
「仮装はわかるんですけど、何でぞろぞろ歩いてるんでしょうね」
『たくさんの人に見てもらいたいんじゃないかな?』
「……数年前、ハロウィーンの日だと知らずに関西の繁華街でフグを食べることになって」
『フグ!』
「ええ、フグです。でも道いっぱいに人がいるんですよ。仮装行列に逆行する形になって予約時間に遅れたことがあったなぁと」
『それで?』
「いえ、オチはありません。……なのでハロウィーンというとフグを思い出すっていう話」
奥さんはプッと吹き出した。
「今、笑うところありました?」
妙に大人びて『晃さんて自然体ですよねぇ』など言ってのける奥さん。
「それは天然って意味かな?……返答次第ではイタズラしますよ?」
(返答を待つまでもなくイタズラに及ぶ晃)
(了)