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恋する編集者シリーズ第3弾「かけ引き。」アフターショートストーリー
電車の中からラインを送ると「俺、もう駅にいる。待ってるよ」とすぐにレスポンスがついた。
なんとか定時には上がれたもののやはり待たせてしまった。
空のオフは私のオフとはほぼ重ならない。残念。
かつての空なら私の会社の前に車を停めて待機したはずだが、「目立つのイヤなんだろ」と最近はかなり「常識的」になってくれた。
今日のデートは都下にあるミニシアターで古い名画を見るというプラン。
小国の王女様が外交先のローマで出会った新聞記者と恋をするお話は、テレビ放映でもDVDでも見たが映画館で見るのは初めてだ。
郊外にある映画館というのも目立つ彼氏を持つ身には助かる。
帽子とサングラスで扮装した空に駅の改札口で出迎えられる。
だが隠し切れないオーラのせいで女子高生たちの視線が集まっている。
まずいなぁ。人気商売の彼の足を引っ張りたくない。
「早く行こう」と空の袖を引くと「何だよ。手、つなげよ」と指を絡めてがっちり恋人つなぎをされてしまった。
映画館は八割方客席が埋まっていた。
若い子もそこそこいたが、老夫婦らしきカップルが多く、フライヤーを見ながら談笑する姿を見て心が和んだ。
昔のデートの思い出でも語ってるのかな?素敵だな。
内容は簡単に言えば悲恋なのだけど、無邪気だった王女が切ない恋を経験して大人の表情になるラストがいつも印象に残る。
上映後、隣のレストランでご飯を食べながら空に感想を聞いた。
「俺は髪をバッサリ切るとこ。あと真実の口のシーン? 記者の手が食べられちゃったと思い込んだとこ。めっちゃ可愛かった」
「あー、あれは可愛いよね。私もローマに行ってアレやってみたい」
「映画に出てくるシーンて再現したくなるよな」
うんうん、とうなずいていたら太ももにぞわぞわと何かが触れる。
ん?
「ちょ、ちょっと何してんの!」
「ん? 再現してんの。一緒にDVD見たじゃん。ダンサーの話でさ、メシ食いながら足で相手にイタズラするの」
高級レストランでロブスターを食べながら、ヒロインが向かい合った彼氏の股間を足の爪先でまさぐるシーンを思い出す。
いや、それどころじゃない!
スカートの中に足をつっこまれているのを誰かに見られたら。
「……あれは、ヒロインからだったでしょう」
「あーそうだった。じゃ、あんたが俺のをやってみる?」
ニヤッと笑う顔はいつもの悪ガキ。やはりまだまだ「常識人」には遠い。
シツケが足りない? でも惚れた弱みでやっぱり許してしまう。
「……ベッドでならね」
それを聞いた悪ガキは身を乗り出して「今から実践しようぜ」と私に囁き、テーブルの伝票をつかんで立ち上がった。
(了)