Tunaboni CollectionsはオリジナルドラマCDのレーベルです。

【ハロウィーンの策士】

KIRA・KIRAシリーズ:ハロウィーン・ショートストーリー第3弾流星編




10月は「自称・私のしもべ」である流星がハロウィーン仕様のお料理を振る舞ってくれている。
以前の言葉、「俺の食事であなたの細胞を作る」の実践がまだ続いているのだ。
そんなに頑張らなくていいよ、と申し出たこともあるが一笑に付された。
しもべが主人のために尽力するのは当たり前でしょ、と。
「イヤだったら我慢して食べる必要はないからね。美味しいと思うものだけ食べて」
そうじゃなくて美味しいから我慢できないのに。白状すると最近体重計に乗るのが怖い。

「太ってきた、と思う……」
「そうかな。どれ」
自然な手付きで私の背中を触る流星。その手がじょじょに下がってお尻にいくので、こらこら、そこでストップ、と制止する。
「ん~~……そうでもなくない?服の上からでも触り心地いいのがわかるし」っ……それはもうアウトなのでは?
と、オーブンから調理終了のチャイムが鳴った。
「お、焼けたみたいだな」
流星は弾む足取りでキッチンに移動していく。

その姿を見送りながら考えた。
どうしたら尽くさせずに済むのかな?
もしかして「アレしてコレして、違う、コレじゃない」って威張っちゃう方が流星的には好み?
仕事中はそれに近い指示も出すけど(一応こちらが先輩なので)プライベートでそれをできるかというと……元々そういう性質というわけでもなく。
……うーん難しいな。
「何を悩んでんの。……あちっ……皿に気をつけて、熱々だから」
「うわっ」

耐熱皿の上では丸々一個のかぼちゃを器にしたグラタンがとろけるチーズで蓋をされてグツグツ音を立てている。
「……すごい……ボリューミィ……」
「器ごと食べられるよ。外側を見てみ。一応、目と口を飾り切りにしてみた。ジャック・オ・ランタンに見える?」
「見える見える。器用だね……流石」
そう言うと満足げに笑った。それがなんとも言えずに良い笑顔なのでつい頭をぐりぐりしたくなる。
(そうか!これだ)
おもむろに流星の頭をぐりぐりする。
「流星って本当に何でも上手だよね。すごいなぁ」
「……相変わらずすげー刺さる……たまんねぇな」とじわじわしている流星。
うん、威張るのは無理だけど褒めるのはできるぞ。褒め上手を目指そう。

なんだかんだ言いつつ、ボリューミィで沢山細胞を増やしてくれそうな夕飯を食べ終わる。
「すごく美味しかった。ごちそうさま」
「残すかもしれないと思ってたけど食えちゃったな。俺はもっとイケたかも」
お料理の好きな人は食いしん坊だと言うが、流星もたくさん食べるタイプだ。これも私の2倍は食べていたのだが。
「流星って太らないよね」
「そういえばそうだな。……なあに?まだ太るかどうか気にしてるの?しなくていいのに」
「……気にするよ。たくさん食べても太らないお料理があればいいのに」
そう言うと、お?という顔になる。
「それって俺へのリクエスト?」
「?できるの?」
ふふん、と不敵に笑って「そりゃできるでしょ」と言ってのける。何だ、そう言えばよかったんだ。
「できるなら次からはそれでお願いしてもいい?」
「もっと取引先に言うみたいに言って」
……それ何かのセリフだった気がする。なんだっけ。
「えーと。……『次回からは太らないお料理の製作を貴殿に依頼したく存じ上げます』……?」
「あ、イメージと違った。やっぱ命令して」
「もー!」

あはは、と笑いながら私を抱きしめる流星。
「この身体を、俺が太らせたり痩せさせたりできるの?最高かよ」
「言ってることが怖いよ」
実のところ流星は策士なのだ。実際、私は主人じゃなくて籠の鳥なんだろうな。
しもべのふりをして私を絡めとってしまった男。
こうと決めたら一直線にその目的に向かって走れる男。
「だって、あなた、俺に愛されちゃってるんだもの。しょうがなくない?」
ん?といたずらっぽい目で私の顔を覗き込む。
「しもべを退任して『あなたの管理責任者』になろうかな」
「もうなってる」
「ちょっと違うな。大事にするのは一緒だけど、あなたの意志が反映されなくなるよ?」
「……ますます怖い」
「怖くないよ」
そう言って私の頬にやさしく口づける。

私の髪を撫でる手付きも耳に落とすキスもやさしいのに少し不安だ。
崇拝される器とも思えないのにそういう目で見られたこと。
そして「あなたはそのままでいいの」と言い切られたこと。そんなにいい女扱いされていいの?と思ってしまうのだ。
「私、ホントにこのままでいいのかな」
うん、と首筋にもキスをされる。
「どんなあなたでもいい。このままでもいいし、変わってもいいし」
「……うーん……」
「……なぁ、考え事やめない?いちゃつく時間が無くなるよ」
「流星のこと考えてるのに」
「何それ。殺し文句か」
「……振られたくないんだよね……」
「……ダブルで殺しに来た。コレが計算ならすごい策士……」
計算じゃな、と言いかけた言葉は彼の口の中に吸い込まれる。
そして、それは深い深いキスに変わっていった。

流星と初めて迎えたハロウィーンがもうすぐ終わる。
次もまたその次のハロウィーンも、ずっと流星と一緒に迎えられますように。ハッピーハロウィーン。


(了)