Tunaboni CollectionsはオリジナルドラマCDのレーベルです。

【Seul Dieu sait !(神のみぞ知る)】

「私の小鳥-Rosa(ローザ)-」発売記念ショート・ストーリー




王宮から私邸へ続く回廊をすれ違う人々に会釈をしながら歩く。
(なんでこうやすやすと入れたものか)
いささか拍子抜けする。

まずパーティー会場への入場そのものが緩かった。
入り口で招待状(偽造)を見せただけですんなりパスしてしまう。
受け答えまで用意周到に準備してきたというのにまるで意味が無かったぞ。
(フランスの外交官補佐という設定が完全に無駄…おお)
結構な人数がいるはずなのに混雑していないのは、サロンから庭まですべてを解放しているせいだ。
形式ばったパーティーではなくかなりフランクで、逆に言うと人が散らばりすぎてお目当ての人間がどこにいるかもわかりにくいという按配。
人だかりが多い場所に見当をつけてようやく国王陛下を見つける。
が、何かが足りない。
何だろう……?と首をひねってすぐに気がついた。
(どうしてロザリオを身につけていないんだ?)

話しかけてさりげなく後ろ手で鎖を切り、落としたところをすり替える……という手段を考えてきたが……水の泡だよ。
呑気に笑う王様をまじまじと見つめる……陛下、ロザリオはどうされたのです?
威厳はあるが親しみやすそうな御仁だ。
噂には聞いていたがこのリヒトブルクという国はちょっと変わっているらしい。
この王様、ヴィルフリート公になってからグッとラフに(いい意味で)なったという。
いやいや、そんな感想を抱いている場合じゃなかった。
おそらくロザリオは私邸にあるのだろう。
先を急ごう。

奥へ奥へと進むと人の気配が急に途絶えた。
流石にというか、当たり前だが、私邸へ続く扉の前には衛兵が2人いた。
まずは第一関門。
何やらニヤついた顔で話をしているが、どうやら夜勤明けに【よからぬ場所】で遊ぶ算段のようだ。
私はゆっくり彼らに近づきにこやかに話しかける。
「ボンソワ、ジュフェデモミュ?(こんばんは、がんばってる?)」
ふたりは「色男が来たぞ」「フランスの客だな」と目配せをし合い、ぎこちない笑顔を向けてきた。
うーん。少しぐらい疑ってくれればいいのにねぇ。

まぁいいか、時間が無いし、と懐からパルファン(香水瓶)を取り出した。
「女とアソブの?コレふらんすの香水。モテルよ。つけてミル?コレをつけたらモウ……!」
と、わざとらしくカクカクと卑猥な腰つきをしてみせる。
「おーメルシーボクー!」と熱り立つ彼らは助平心が勝ちすぎだ。
これをね、こうやって……と鼻の下に塗りつけてやると、あっけなく膝から崩れ落ちてしまった。
その後、ふたりを寝心地の良さそうな植え込みの陰に移動させ、そっと声をかけた。
『ボンニュイ。いい夢を』

さあ行くぞ。
高揚する気持ちを抑え王の私室に続く廊下をひた走る。
私邸の使用人たちもパーティ会場に駆り出されているようで万事好都合。
ドアに手をかけると案の定施錠されていない……カチリ。
第二関門突破。
この瞬間がたまらない。
興奮のあまり達ッてしまいそうだ……愛しいお宝は……どこだ?

あれ。
廊下を駆けてくる音がする……誰かがここにくるのだろうか?
見つかるかどうかは神様だけがご存知だが、勿論捕まるつもりはない。
私はじっと佇み運命の瞬間を待ちわびる。

(了)