Tunaboni CollectionsはオリジナルドラマCDのレーベルです。

【東京上空150メートル】

KIRA・KIRAシリーズ:ハロウィーン・ショートストーリー第1弾司編




司がハロウィーンにちなんだデートでもしてみようかと提案してきた。
「予定を立てていい? 明日の晩なんかどう?」
「?明日は平日だけど……仮装行列とかはどこも土日で終わってるんじゃない?」と言うと
「そういうガチのイベントじゃなくてぬるーく乗っかろうっていう話。仕事が終わってからでいいの」とウィンクする。
ハロウィーン仕様に飾り付けた街を歩いたりするのかな。まぁ何でもいいな。司と一緒なら何でも楽しめるはず。

終業時間になり、エレベーターで階下に降りる。迎えに来てくれた司が会社のエントランスで手を振っている。
「俺、今ずっとコスプレしてたよ」
「?」
何だろう。特に変わったところはない。いつものスーツだし、と首をかしげると、
「大好きな彼女が来るのを待ちわびてた男のコスプレ」と笑う。
あは、いわゆる地味ハロウィンだね。
会社を出て、ふたりで地下鉄の駅まで歩いた。

「ところで、俺にどこに行くのか聞かないんだね」
「そうだね。どこに行くの?」
「東京の上空150メートルなんだけど。あなた、ああいうのは大丈夫かなぁ……」
えっ。ハラハラする系なのか。まさかバンジージャンプやスカイダイビングだったり……は無いか。東京上空とは……?
地下鉄の暗い窓ガラスにはハテナマークの浮かんだ私の顔が映っている。
すると、こらえきれなくなったように司が吹き出した。
「ぷはっ、そんなに考え込むとは思わなかった。ほら、ここで降りるよ」
降りたホームには「東京タワーはこちら」の案内板があり「ここに行くってこと」と司がネタをばらす。
「こら、人が悪いぞ」
「だってハロウィーンだもの。いたずらしたいじゃん」
ぎゅっと手をつないで、そのまま唇に引き寄せる司。
「ごめんね?……あんまり無防備に俺を信用するからついからかっちゃった」
そりゃそうだよ。信用しきってるもん。口には出さずに手首を返して彼の指を甘噛みした。
「あひゃひゃ、くすぐってぇ」とふにゃふにゃ笑う。
これで伝わって。

東京タワーには毎年恒例のイベントがある。
それは廃墟に見立てた場所で衣装や小物を使って(無料で貸し出す)写真撮影ができる、というもの。
たまたまこの日はファミリーが多かったのか、次から次へと小さな魔女やちびっこ魔法使いがパパやママの前でポーズを取っている。
「みんな可愛いね」
「うん。あなたも仮装してみれば?」
「え、私だけ?」
「俺はもうさっきやったし。待つ男は渾身のコスプレだったから疲れちゃった」しれっとしているなぁ。じゃあ私もパス。

司が今回見せたかったのはプロジェクションマッピングなのだそうだ。
メインデッキの扉を開くと、目の前に夜景とマッピングが映し出すハロウィーンの映像が広がった。
可愛らしいお化けやコウモリ、かぼちゃたちが、窓や床を動き回っている。その動きがびっくりするほど早い。
「平日の方がじっくり見られると思ったんだよね」
確かに混雑していると夜景も映像も眺めるどころじゃないだろうな。なるほどこれは正解だ。
「夜景も綺麗だね」
「気に入った?」
うん、と肩を寄せる。
司と出逢ってからいつでも何をしても満たされているよ。
「あ、今伝わった」
「ホント?」
うん、めっちゃわかった、と私の肩を抱く司。
「俺も同じ気持ち……あー幸せ」
伝わってた。
ふたりでいれば地上でも東京上空150メートルでもいつも幸せでいられる。
ふいに小さなカボチャがそばにやってきて、それがふふふと笑ったように見えた。


(了)