Tunaboni CollectionsはオリジナルドラマCDのレーベルです。

【光のホワイトデー】

mariageシリーズ・樋口涼へのお礼ショートストーリー




大失態をおかしてしまった。
バレンタインデーにひよこからチョコレート(すこぶるセンスにあふれた金平糖型のヤツ)をもらって、何をお返ししようか考えているうちにホワイトデーが過ぎてしまった。
こういうイベントに疎くなってきつつあるのを自覚する。
多忙のせいか、はたまたトシを取ったせいか?いや……きっとどちらもに違いない。
一日遅れくらいならセーフかな。とにかく何とかせにゃ。
ひよこは鼻歌を歌いながら洗い物をしている。

「ひよこ、ちょっとそこまで一緒に出かけよ」
「今からですか?……え、どこに?」
「それはナイショ」
と言うと首をかしげた。

車に乗せてしばらくすると、ひよこはお出かけの距離が「ちょっと」ではないことに気がついた。
「えー?」と驚いている。
「コンビニかと思った……」
「何か買いたいものでもあるの」
「特にはないですけど。コンビニ楽しいじゃないですか。今、一番くじとか何をやってるんでしょうね」
やっぱりこいつの方が若いのか。俺は最近そういうことに関心が薄くなってるよ……やばいな。
デザイナーがそれではいかんだろ、と反省する。
今日は反省の一日になりそうだ。

パークウェイに入るとカーブにうねる山道がしばらく続き、やがて丘の上に展望台が見えてきた。
「降りて」
展望台へ向かう道をふたりで歩く。
駐車場からも夜景が見えていたが、視界を遮るもののないテッペンの展望は格別だった。
「は~~綺麗ですね」
「夜景も綺麗だけどな、空も見てみな」
澄み切った空気の中に、さえざえと星々が瞬いている。
「気に入った?」
「はい!」
ああ、良かった。

「バレンタインデーのお返し。とりあえず今日のところはこれで勘弁して。ちゃんと埋め合わせるから」
そう言うと、気にしないでください、と笑ってくれた。
「本当に綺麗」
「おまえの金平糖チョコには負けてる」
「そうですか?」
「うん。センスあるなぁと思った。負けてらんねーとも思った」
「……私が勝てるわけないじゃないですか」
「んなことはないよ」
俺もぴかぴかにアンテナ磨いてがんばらないと。

つないだ手をぎゅっと握りしめると、同じように握り返してきた。
こいつの気持ちが伝わってくる。
ふたりで眺めていると、星と街の光は一層輝きを増したように見えた。
静かで、やさしい夜だった。