Tunaboni CollectionsはオリジナルドラマCDのレーベルです。

【やさしいエゴイスト】

In the room-イン・ザ・ルーム- 分岐エンド②アフターショートストーリー




彼を甘やかすにあたって決めたこと。
・脱ぎっぱなしの靴下に文句を言わない。「一日ご苦労様」と捧げもって私が洗濯機に投げ入れる。
・彼の好きな花で部屋を飾る。
・毎日お布団をふかふかに干す。
・好きな献立で責める。彼は私のことを痩せたというけれど、実際に痩せたのは彼だと思う。
(なんだか太ってきた、と言われても当分やめるつもりはないよ?)

そして夜のことも。
誠二さんが私をベッドに誘う言葉は決まっている。
「しよう」または「するよ」だ。
熱っぽい目で私を見ながら決定事項のように短くそう言い切る。
その全ての誘いを断らない。私はそう決めたのだ。

あの「ビフォー」と「アフター」で私たちのセックスは変わった。
それまでの私たちの営みは、温かく穏やかで心地よい陽だまりにいるようなものだった。
世間一般の愛情というものを形にしたらきっとこういうものだというような。
それは満ち足りて安らかな眠りにつくための儀式だった。

だが今は、私が知らない間に彼の中で何が起きたのか、際どく追い詰め、私の快感をとことん高めるような激しさを伴うものになった。
勿論、彼自身も私を貪ってくる。
執拗なほどに。

退院して間もない頃、行為の後に「なんだかすごくなったね」と誠二さんに言ったことがある。
その時の彼の姿が今も忘れられない。
『……これが最後かも、と思う癖がついたかな』
彼はそう言って目を伏せたのだ。

(きっと彼を怯えさせたのは私)
だから贄になろう、これは贖罪、などとうそぶくつもりはない。
私もこの熱い情交に身を投じることを悦びに思うから。

そして今夜も。
うなじをつかまれるようにしてキスが始まった。
口の中にある器官すべてを喰らいつくすような、熱い熱いキス。
合わせた唇の脇からこぼれ落ちる唾液があごを濡らした。
もうどちらのものともわからない、渾然としたその液体を彼が追いかけ、綺麗に舐めとっていく。
そのまま、首を、鎖骨を、胸を。

身体中を這いまわる指の動き、舌の動きの確かさに、皮膚の下から快感が滲みだしてくるのがわかる。
自分で上げた声の大きさに驚いて唇をかみしめたが、許さないというようにそれを指で解かれてしまう。
口を閉じないように指を舐めしゃぶることを無言で命じてくるので、これまでにない熱心さでひたすら舌を使い続けた。

やがて大きく開脚させられて、彼の頭がそこに埋まる。
焦らすようについばむ唇の動きに、思わず彼の髪をつかんでかき混ぜると、
「もっと?」
と笑いながら尋ねるのがずるいと思う。
だから何も言わずに頭をそこに押し付けた。

すすりこむ水音が室内に響きわたる。
その隠微な響きさえも耳からの快感になることは、彼から教えてもらった。
彼の舌が私を味わい、私が彼の舌を味わう至高の時間だ。
ああ、でも、もう。
限界が近づいてくる……。
「いいよ、イッて」
とどめに深く指を差し込まれ、私は急速に頂きに上りつめた。

「入るね」
やっぱり決定事項だ。少しだけ笑ってしまう。
「何?」
ううん、なんでもない。腕を首にまわしてキスをねだろう。
もっともっと感じ合うために。

(入ってくる時の切なげな顔が好きだな)
と、見惚れている間もなく、律動は始まった。

唇も皮膚も性器も隙間なく重ねて、快楽に浸っているのにどこか私は寂しい。
いつもこのまま溶け合いたいと思っているのに叶わないから。
このまま中から血管も神経もつながってしまえと思う。
心臓も何もかもたったひとつでいい。
何もかも共有して生きる双頭のイキモノになってしまいたい。
揺れる彼の前髪を見ていたら、じんわりと涙があふれた。

「どうしたの。辛い?」
動きを止めた彼が心配そうに見つめてくる。
「……あなたをすごく愛してる」
「え」
驚いた顔が無防備な少年のよう。
だから、ますます愛しさが増すばかりだ。

「……僕もだよ。愛してる」
そして、私の唇に小さなキスを落としたのを合図に、律動は再開され、それは次第に激しくなった。

絶え間なくそそぐ彼の吐息。
顔に、胸に、飛び散る彼の汗。
内蔵までえぐりこまれるような深い動き。
何もかもが私を高めていく—

……。
ほんの一瞬、私は気を失っていたようだった。
注ぎ込まれる熱いほとばしりに最初の終わりの時間を告げられる。
「は……」
脱力した彼の身体の重みが嬉しいから、汗に濡れた脊中を抱きしめて(まだ出て行かないで)と訴えた。

「ん? もう一回? 欲張りさんだな」
笑う彼にちょんと鼻をつつかれたけど、私は知っている。
やさしいエゴイストはこの願いを叶えてくれることを。

(了)