Tunaboni CollectionsはオリジナルドラマCDのレーベルです。

【変わらないもの】

mariage_Vol.4発売記念ショートストーリー




「そう言えば、あなたに聞いてみたいことがあったんですよね」
-?
「あの時のことなんですが……」
と、話は過去に遡る。



銀行でのランチタイム。
受信メールの【合格しました!】のタイトルを見た瞬間ガッツポーズをしてしまい同僚に驚かれた。
「いや、家庭教師をしている子が受験に合格したので」と話すと「ああ、あの例の」とうなずかれた。
「可愛いって自慢してた子だろ。上手いことやってんなーと思ってた」
ずいぶんと失敬なことを言う(可愛いのは本当だけど)
お祝いに何か贈ろう、と考え始めたものの、十代の女の子の好みそうな物を思いつくはずもなく。

その後、プレゼントを渡すだけでは味気ない、食事も一緒に、と考えがまとまったのだが、『十代の女の子の好み・その②・食事編』の問題にぶち当たる。
パンケーキ?ハンバーグ?そうするとファミレスが無難?いやいや、悪くはないが「ハレ感」が薄い。
メニューが老若男女に対応、それなりにハレの雰囲気もあって堅苦しくなくて、と選抜していくと、我が家が昔から通っているイタリアンの店が適当と思われた。
さて、肝心の『その①・プレゼント編』だ。うーん……何にしよう。十代に詳しい神様、知恵を貸してください!

そして当日、待ち合わせ場所に佇んでいる人を一瞬彼女とは思わずに通り過ぎそうになった。
「うわ……見違えました」
今日の彼女は普段よりも大人っぽい装いをしている。そう指摘すると真っ赤になった。
-そういうお店はカジュアルじゃない方がいいのかなと思って
「ちゃんと考えてきて偉いですね」
褒めて学力を伸ばしてきた癖で、つい頭を撫でそうになる。
それにしても女の子は変わるものだ、と面映い気持ちで並んで歩いた。

「これ、ささやかなお祝いです。なかなか思いつかずこんなものになってしまいました……合格おめでとうございます」
リザーブをしていた席で包みを渡す。
開けてもいいですかと聞かれ頷いた。包み紙を開く表情は期待に満ちている。ああ、どんな審判が下るんだろう。
-テーマパークのパスポート!……ありがとうございます!
良かった。外してなかったらしい。
「行く日を指定するそうですよ。あとから気づいたんですが、一人分というのは使いにくいですよね。……何なら私と一緒に遊びに行きます?」
最後の一言は冗談まじりだった。当然流されると思っていた。ところが。
-はい、お願いします!
目を輝かせている……可愛くて参ってしまう。思わず頭を撫で撫で。
……店内の視線を集めていることに気がつくまでうっかり撫で続けてしまった。

談笑のうちに食事が終わり、会計をしている時に「晃」と肩を叩かれた。
見れば、父親が彼女のお父上と並んで立っている。これから食事だという2人は、席が空くのを待っているらしい。
「今日はお祝いをしてくださったそうで。この度は晃くんに本当にお世話になりました」
「いや、愚息がお役に立てたなら何よりでした……おっ」
彼女の姿に目を見開く父。
「今日はやけに大人っぽいね……合格おめでとう」
ありがとうございます、と畏まる彼女を不躾に見ている。その視線はもはやセクハラに近い。
が、なおも父はたたみ掛けた。
「うん。お似合いだし相性もいいみたいだし。晃と将来一緒になってやって」

ん?
「いいですね。晃くんなら安心だ」
中年男性ズを交互に見ると、うんうん、とどちらも頷いている。……何故お父上まで?
ぽかん、と口を開けていた彼女の顔がみるみるうちに赤らんできた。
「……いきなりそんな……この人が可哀想でしょう」
「おや、そうなの。晃じゃイヤ?」
何も言えずに首を横にふる姿が痛々しくて、思わず立ちふさがった。
「もうやめてください」
「やっぱり仲がいいな」
「……店先でする話じゃないですよね。お先に失礼します」
にやつく2人をあとにして急いで店から退出した。


そして、今。
「……っていう、婚約にいたるきっかけ。あったじゃないですか」
-ありましたねぇ
「あの時あんなセクハラっぽいことを言われてどう思ったんですか。傷ついたかなって気になってたんです」
-……ううん。晃さんが『え、こんな子供と私がぁ?冗談じゃないですー』って言ったら嫌だなとは思ってましたけど
「………まさか物真似されるとは思わなかった……」
-似てました?
「かなり」
-あはは
「……まぁ……今となっては、あの人たちに感謝ですね」
-そうなりますね
「……テーマパーク、久しぶりに行きましょうか?」
-!!
「ほら、おいで」

可愛いい反応は変わらない。ただ私が頭を撫でる程度では済まなくなっただけ。
愛しい人の頬に口づけながら、次の休みはいつだっけ?と考えている。


(了)