Tunaboni CollectionsはオリジナルドラマCDのレーベルです。

【あなたのすべてを知りたくて】

私の小鳥-Shwarz(シュバルツ)-アフターショートストーリー




私にはずっと気になっていることがある。
グリューエン市にいた2年間のコンラート様のことはうすうすわかるし、今の彼については当然知っているつもりだ(一緒に生活しているのだもの)
でもそれ以前の26年間、お城にいた頃の彼のことは知らない。
(一体どんな風に過ごされていたのだろう……どんな方とおつきあいを……)
食後のお茶を飲みながら考えていると彼が私の様子に気がついた。

「どうしました?」
「あの……ずっと伺いたいと思っていたことがあって……でも、無理にということでは」
手にした書類をテーブルに置いて『話を続けるように』と彼が片眉を上げた。
「……お子様の頃のあなたのご様子とか、その後の……グリューエンにいらっしゃるまでの過ごし方とか」
「……ほう。またですね」
「?」
「あなたは私を質問責めにするのがお好きだから」
ふふ、と笑って指を組み、私を上目遣いで見つめた。
「……正直におっしゃい。本当にお知りになりたいのは私の過去の女性関係。……違いますか?」
オリーブグリーンの瞳にキラリと射抜かれて私の心臓が跳ね上がった。

「……あなたには余計な話をしましたからね。本気とも遊びともつかない付き合いをしていたとか、素直じゃない女がいいと思っていた時期もあったとか」
図星を刺されて思わず顔が赤らんだ。
「……おっしゃるとおりです。みっともないですね、ごめんなさい。聞かなかったことにしてください」
くすくす笑いながら、コンラート様はこっちにおいでというふうに、優雅な手つきで私を招く。
「……いや、全然。いい傾向ですよ。あなたは今まで『嫉妬』という感情をご存知なかったのに、私の過去が気になっているのだから」
ずいぶん遅い気づきですけどね、と言いつつ、私を抱き上げて膝に乗せる。

「馬鹿げたものばかりで、お耳に入れる必要はないと思いますが……。でもこんなことで心を痛めるのもお気の毒ですから。少しだけ、ね?」
「先の国王の時代、宮中はかなり乱れておりまして。……貴族なんてものはどこの国でもそうでしょうけど、真面目な男女の交際を軽んじる風潮がありました」
指で私の髪や耳をもてあそびながら、彼はなおも続けた。
「……誰があの女を落とせるか、なんてことはしょっちゅうしてましたよ。要するに……おふざけ、ゲームみたいなものです」
「?相手の女性が本気になったらどうなさったんですか?……少しお可哀想な気がしますが」
ふうーとため息をつきながら天井を仰ぐ彼。
次に私によこした眼差しはとても切なそうに見えた。

「軽蔑しますか?……なんとも思わなかったのですよ、私はろくでなしでした。不遇の時代があって……第五子以降の王子には教育を受けさせないという法律のせいで」
「そうだったんですか!?」
「ええ。……要するに飼い殺しですね。当時の官僚が作った悪法です。教育費というのは膨大ですから税金の節約になりますし、継承権の低い王子に余分な知恵をつけずに済む。大人しく息だけしていろということだったと思いますよ」
「……それで、無為な生活を送りました。『おまえは必要ない』と言われているようで……自分すら大切に思えなかったので、他人を大切に思うことはもっとできなかったんです」
「………」
「そのうち、そんな生活に嫌気がさして独学で勉強をし始めて。……ああでも。兄王の治世になってからは大学に通えるようになりましたよ」

知らなかった。そんなことがあったなんて。
「それで。遅まきながらやるべきことを見つけたくて学業の途中で城を飛び出した。あの2年間の生活が私を真人間に近づけてくれた……だから」
「まともになってからあなたに出逢えてよかった、と……おや。何故そんなに悲しそうなの?」
不思議がりながら私の顔を覗き込む。
「いいえ。……私は……その頃……辛い思いをされていた頃に……お力になりたかったです……」
その言葉を聞いて彼が私をまじまじと見つめる。
と、みるみるうちに痛みをこらえるような表情になった。
失礼を言ってしまったことに気づき、謝罪しようと口を開いた瞬間。

私のうなじに彼の大きな手が回り、顔を寄せられ、唇を奪われた。
歯をこじ開けられ、舌を差し込まれ、くねるその動きにただただ翻弄される。
ひとしきり私の口内を蹂躙した後、ため息をついた彼がつぶやいた。
「……そういうところが、たまらないんです……。心がね、きゅうっとなります。あなたの純粋さに……」
ぐるっと視界が半回転した、と思うまもなく上向かされた。
そのまま私を横抱きにし、立ち上がった彼はおだやかな微笑みを浮かべている。

「あ、あの……?」
「あの過去があなたに逢うための布石だったなら。……もう自分を恥じずに生きていけます。……未来永劫、私の力になってください」
「コンラート様」
迷うことなく寝室に向かう彼がそっと私の耳に囁く。
「そういうわけで。……さっそくあなたを補給させていただきます。……よろしいですね?」
(私が知っているあなたがきっとあなたのすべて)
うなずいた私の額に軽いキスをして、彼は寝室のドアを開けた。


(了)