「島崎誠二さんがあなたに逢いたいんですって」
母はそう言った。
シマザキセイジさん……誰だったかな?
「あなたの先輩のアカネさんの弟さん。
あなたと話したいそうよ、いってらっしゃい」
……どうしよう、どんな人かよく知らないのに。
でも先輩の弟さんだし……何か大事な話なのかもしれない。
迎えのタクシーがクラクションを鳴らす。
母に見送られて私は出発した。
豪奢な洋館の前にタクシーは停まった。
アカネさんの家は代々続く旧家とは聞いていたが、これほどすごいとは。
支払いをするために財布を取り出すと運転手は首を横に振る。
「お代はもう頂いていますから」
よくよく考えるとタクシーで来たことが不思議。
どうして母はタクシーを呼んだのだろう?
分不相応な気がする。
降りた先では門柱にもたれるようにして背の高い男の人が佇んでいた。
優しげな目元がアカネ先輩に似てる。
この人だ。
シマザキセイジさん。
「やぁいらっしゃい。約束どおり来てくれてうれしいよ。今日は楽しもうね」
話しやすい穏やかな人。
感じがいい。
私が彼を覚えていないことも気にしてないみたい。
よかった。
玄関までのアプローチを過ぎ家の中に入ると彼は言った。
「実はきみのおうちの人にも内緒にしていることがあるんだ」
「本当はね。僕はきみを抱くためにここに呼んだんだよ」